Interview インタビュー Vol. 008

須藤先生、医療系の大学にDS・AI教育を広めるのは、どこが大変ですか?

Vol. 008

須藤 毅顕 先生 Takeaki Sudo

データサイエンス・AI全学教育機構 特任講師、歯科医師

専門分野:歯周病 / 機械学習

須藤先生は本学が統合する以前の旧東京医科歯科大学時代から、医歯薬学分野におけるデータサイエンス(以下、DS)・AI教育のモデルカリキュラム・教材開発に携わってきました。理工系の学生と比べてプログラミングへの関心が高くない傾向が見られる医療系の学生には「実際にAI診断などのプログラムを動かして体験してもらうと反応がいい」と話します。歯科医師でありながらプログラミングが大好きな須藤先生は現在、医歯学系の教育現場でのAI活用にも取り組まれています。
須藤先生、医療系の大学にDS・AI教育を広めるのは、どこが大変ですか?

須藤 毅顕 先生 Takeaki Sudo

データサイエンス・AI全学教育機構 特任講師、歯科医師

専門分野:歯周病 / 機械学習

須藤先生は本学が統合する以前の旧東京医科歯科大学時代から、医歯薬学分野におけるデータサイエンス(以下、DS)・AI教育のモデルカリキュラム・教材開発に携わってきました。理工系の学生と比べてプログラミングへの関心が高くない傾向が見られる医療系の学生には「実際にAI診断などのプログラムを動かして体験してもらうと反応がいい」と話します。歯科医師でありながらプログラミングが大好きな須藤先生は現在、医歯学系の教育現場でのAI活用にも取り組まれています。

医療系大学にDS・AI教育を広める―― 特定分野校としての使命。

須藤先生は医歯薬学分野のDS・AI教育のモデルカリキュラムや教材開発に関わられています。その経緯を教えてください。

歯学部の博士課程で歯周病のゲノム解析が研究テーマだったので、そこからプログラミングを始めました。その後臨床を主にやっていましたが、旧東京医科歯科大学が医学・歯学分野にDS・AI教育を普及させる文部科学省の事業に採択されたことから、専任教員を集めることになり、私に声が掛かりました。AIには以前から関心があったので、ぜひやってみたいと思いました。

まずカリキュラムの整備から始めたのですが、医療系大学はどの学科も必修科目が多く、そこに新たに科目を増やすのは容易ではありません。DSに関連している先生方にヒアリングして授業内容を全てリストアップした上で重複部分を圧縮できないか相談し、コマ数を少しずつ譲ってもらう地道な作業の連続でした。そして「数理・データサイエンス・AI教育強化拠点コンソーシアム」が作成しているモデルシラバスと照らし合わせながら、具体的な授業内容を当てはめ、カリキュラム全体を構築していきました。私はその授業自体も受け持っています。

須藤先生、医療系の大学にDS・AI教育を広めるのは、どこが大変ですか?

旧東京医科歯科大学は前述のコンソーシアムにおいて唯一、医歯薬学に特化したDS・AIの特定校でしたので、教育カリキュラムを開発・発信し、他の医療系大学へ普及・展開することが最大のミッションとしてあります。現在も定期的にワークショップを開催して、他の医療系大学の取り組み状況を聞きつつ、DS・AI教育に参加・協力してもらえる大学を増やす活動を行っています。

「医学教育モデル・コア・カリキュラム」 に加わった DS・AIの活用スキル。

医療系に特化したカリキュラムを他大学へ普及・展開させるというミッションは、どのような点が大変なのでしょうか。

医・歯・薬学、看護の分野には、文科省が定めた「モデル・コア・カリキュラム」があり、その6~7割の内容を授業に取り入れる決まりになっています。2022年度からこのモデル・コア・カリキュラムにDS・AIがかなり盛り込まれてきていて、医療系の先生方は「何をどう教えるべきか」で戸惑われているケースが非常に多かったのです。教えられる先生を外から招くにしても、数が足りていません。そこで、ワークショップを開いて私たちの授業のやり方を見てもらい「専門外の医療系教員でも少し勉強すればDS・AIの授業はできる」と、自信を持ってもらえればと考えています。

実は今、コンソーシアムからの依頼で本学がメインとなり、医療系の「応用基礎レベル」標準教材を制作しているところです。他大学の医・歯・薬学、看護の先生にもお声がけして、チーム体制で臨んでいます。その第1弾が25年12月に完成し、コンソーシアムの会員校に向けて2026年内に公開される予定です。

授業ではAIを使う際の倫理や問題点についても必ず触れる。

須藤先生は、学内でどのような授業をしているのですか。

本学の医歯学系学士課程は、医学部・歯学部あわせて6つの学科・専攻で構成されていますが、DS・AIのリテラシーレベルは全学科・専攻で必修です。私が担当する授業は医療系のデータを使って、できるだけわかりやすくプログラミングを体験してもらうことを主眼に置くもので、オンラインで300人ほどの学生を対象に教えています。スタートしたのが2021年度からで、ちょうどコロナ禍と重なっていたのですが、現在もこのスタイルで続けています。

「WordやExcelは初めて」という人が珍しくない学部1年生に向けてプログラミングの授業をするので、打ち間違えによるエラーで先に進めないといったこともよく起こります。そこで、同じところでつまずいている学生たちには別部屋に移動してもらい、チャットの機能を利用して質問するとサポートの先生方や上級生のTA(ティーチング・アシスタント)が答える体制になっています。

難しいのは、本学の理工学系の学生と比べ、医歯学系の学生の大半はプログラミングへの興味が高くない点です。なので「医療系ではAIはこのように活用できて、こういうところが面白いよ」と、魅力を伝えてモチベーションを上げることが 大切だと思っています。

例えば私が担当する「医療とAI・ビッグデータ入門」という1年生に向けた授業の終盤では、AIが肺のX線画像を「健康」か「肺炎」かに分類するプログラムを学生が自分のパソコン上で動かす体験をさせています。これは学生からの反応がとてもよく、臨床でのAI活用の一例を分かりやすく伝えられます。ワークショップで他大学の先生方に授業を見てもらう際も同様で、「分かりやすさ」を一番大事にしています。

須藤先生、医療系の大学にDS・AI教育を広めるのは、どこが大変ですか?

一方で学生には、AIによる診断は精度に限界があり、現状はあくまで診断補助として使われていること、またAIによる診断ミスが起きた場合に誰が責任を負うのかなど、AIを使う際の倫理や問題点についても必ず話すようにしています。そこを理解した上で、日々の研究や臨床で「AIでこういうことができないか」と応用を考える学生が出てきてほしい。個人的には臨床の現場よりも、まずは医療の教育現場でAIを活用する余地はたくさんあると考えています。

人骨から採取した歯石をDNA解析、江戸時代のヒトにも歯周病はあった。

ところで須藤先生ご自身は、どのような研究をされているのでしょうか。

博士課程の頃に研究していたのは「侵襲性歯周炎」と言う病気です。歯周病は中高年で起きる病気ですが、10代、20代で歯を失ってしまう人たちが一部にいます。まだ遺伝的な解明がなされていなかったので、そういう人たちに共通した遺伝子的な異常があるのではないかと考え、研究を始めました。それで「侵襲性歯周炎と診断された日本人の何%かは特定の場所に遺伝子の異常がある」というところまでは研究報告もしましたが、未だに多くの国や地域の患者さんに共通する遺伝子の変異は確定に至っていません。どういうメカニズムで起きているかがいまだ不明であり、治療法も慢性的な歯周炎と大きく変わらないので、「侵襲性歯周炎」という診断名は2018年の新分類で「慢性歯周炎」と区別されなくなり、歯周炎として包括的に分類されるようになりました。

須藤先生、医療系の大学にDS・AI教育を広めるのは、どこが大変ですか?

「江戸時代の人も歯周病に罹っていた」という須藤先生たちの研究がNHKの番組で紹介されましたね。

それは私がメインではなく、歯周病の原因となる細菌を調べているグループとの共同研究です。江戸時代の人骨から採取した歯石のDNAを解析したら、江戸時代の人々と私たちの口の中の細菌の組成が異なることが分かったのです。

また人骨の画像解析によって、江戸時代の人も歯周病に罹患していたことが分かり、歯周病の原因細菌については時代や食生活などで変化している可能性があることが見えてきました。こうしたアプローチは「バイオインフォマティクス」といって、生物学と情報科学を融合させ、コンピュータを用いてDNAなど膨大な生物データを解析するDSの学問分野ですね。

DS・AIの教育を担当するようになってからは、たとえば歯科で撮る口腔の画像を解析して虫歯や病変を即座に見つけるなど、臨床の現場にAIの社会実装ができないかを考えるようになりました。ただこれはまだ社会実装までの道のりは長く、まずは医歯学系の教育現場でのAI活用を、医学科の先生方と一緒に取り組んでいます。

医歯学系には「客観的臨床能力試験」(OSCE)といって卒業前に臨床の実習試験があるのですが、それを学生が模擬患者に対応している内容を全て評価しなければいけません。そのため先生方は1日張りついている必要があるのですが、たとえば その労力を軽減するためAIによる画像解析で評価するシステムができないか、などを模索しています。

社会を変革する「AIシステム」を生み出す側になれ。

DS・AIを学んでいる学生にどんなことを伝えたいですか。

今、私が学生時代に戻れるとしたら、もっと徹底してプログラミングにのめり込んだだろうと思いますね。今の時代、プログラミングは誰でも始めやすく、ゲーム感覚で夢中になって習得に励めば、将来そのまま仕事に活かせる可能性があります。ぜひ取り組んでほしいと思います。

須藤先生、医療系の大学にDS・AI教育を広めるのは、どこが大変ですか?

歯科の世界では、各分野の専門家がチームを組んで治療を行う「インターディシプレナリー(interdisciplinary)」という考え方がありますが、将来的にはそこにAIの専門家も1人、加わるようになればいい。私は「1クリニックに1データサイエンティスト」を提唱しています。臨床の現場の困りごと、改善すべき点を素早くキャッチアップして「ここは自動化しましょう」と解決策を示せる人材がチームにいれば、今後の医療現場に革命が起きると思うのです。

多くの医師や歯科医はAIを「使いこなす」側になると思うのですが、システムを「生み出し実装する」役割を背負う学生が出てきてくれることを期待しています。

須藤先生、医療系の大学にDS・AI教育を広めるのは、どこが大変ですか?

オフレコトーク

こう見えて、私の趣味は「美術鑑賞」。大学時代はアメフト部に所属していましたが、試合中に相手と激突して硬膜下出血を起こしたことからドクターストップがかかり、試合に出られなくなりました。それが美術に目覚めたきっかけです。
時間をもてあまし、「今のうちに教養を身につけよう」という意識も芽生え、友人と国立西洋美術館の「ルーヴル美術館展」に行った時、一幅の絵に強烈に引き込まれました。フランスの画家、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの「大工の聖ヨセフ」という絵です。暗闇で大工仕事をする父ヨセフの手元を子どものイエスがロウソクの炎で照らしている。光と影の描き方に圧倒されました。その感動が忘れられず、別の日にもう一度見に行ったほどです。
以来、あの時のような感動にまた出合いたくて、美術館巡りをするようになりました。ぜひ皆さん、ルーヴル美術館へ行った際には「大工の聖ヨセフ」を見てほしいですね。